社内ゾンビになりかけブログ

日系大手化学メーカーに1X年勤務し、ゾンビ化しつつある人

大手メーカーの研究スタイル

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 ブログ主は大手化学メーカーの研究所に勤める中堅社員である。入社来、1X年間研究業務に従事している。ちなみに、10年以上研究一筋でいる人は多くなく、その後の会社員生活は研究分野でステップアップしていく、という命運が決まったことになる。

 

 しかしブログ主は、正直研究業務に飽き飽きしている。日々、やってもやらなくても、将来的に誰の生活にもなーんも役に立たないような実験を計画し、結果を回収した後、あたかも、その研究がなければ天は泣き、地は怒り、民草は厄災に見舞われる、ようなビッグストーリーに紡ぎなおす、という仕事をしている。辛い。日々、1しかないことを100に膨らませて書く仕事をしてるんだから、ブログなんて楽勝じゃん?と思ってたのに、実際にブログ主の引き出しは0.0001しかなかったため、膨らませようがなかったという。辛い辛い。

 

 ところで、企業の研究テーマ、というのはどういう風に決まっているか、ご説明したい。あくまで、ブログ主の研究所のN=1事例なので、全然ちげーよ、コラ!というご意見もあってしかるべき。

 

 さて、ひと昔前は、研究所で生み出した成果をもとに、用途を考えていく、という研究スタイルが主流であったように思う。ノーベル賞を受賞するような研究はこのスタイルが多い。他方、このようなスタイルはプロダクトアウト、と呼ばれ、現在の企業においては「研究者のマスターベーション*1」とみなされ、最近ではプロダクトアウト型の研究はそれだけで内容を問わずバッテンとされている。プロダクトアウトの対義となるのが、マーケットイン、で市場のニーズから着想し、課題を解決するような開発品を生み出す、という研究スタイルである。今、ブログ主の会社では、マーケットイン型開発でなければ研究予算を取るのは難しい。

 

 マーケットイン型の研究には、大きな欠点がある。大発明が生まれないのだ。考えてみてほしい、マーケットのニーズ、というのは一般消費者が求めるものである。例えば、毎日ご飯しか食べたことない消費者向けに、マーケットインでご飯に関する研究開発をすると、”短時間で炊ける米”、”古くなっても味が落ちない米”、”洗わないで炊ける米*2”、程度の発明しか生まれない。マーケットイン型の開発からは、フォーや米线は生まれない。消費者の想像力は意外に乏しいのだ。

 

 一方で、プロダクトアウトの開発は違う。例えば、タッチパネル型ディスプレイなどに使用される導電性高分子。この発見は、誤って1000倍量の触媒で重合されたポリアセチレンフィルムが、「あれ?なんか金属みたいに光ってるんですけど。。。」から、「金属に似てるんなら導電性あるんじゃね?」とひらめいたと言われている*3。その後、別の人が「プラスチックが電気通すんならなあ・・・そや!透明やし、成形性いいし、タッチパネルにしたろ!」と発想して、今では携帯電話やら色んなものにタッチパネル型ディスプレイが使われている。いかがだろうか。マーケットインから、こんな独創的は発明は生まれない。せいぜい、軽くする、意匠性を高める、耐久性を高める、云々。貧困な発想の開発品しか生まれないのである。

 

 研究者はやはり、プロダクトアウトの研究開発をやりたい。しかし、上は「そんなテーマ、役員にどうやって説明済んだ!」といって、思考停止でマーケットインを求めてくる。死にそう。しかし、前にも書いたが上に政策あれば、下に対策あり。ブログ主はプロダクトアウトにマーケットインの化粧をしてテーマアップする方法を取っている。予め、雑誌記事や新聞、展示会などからマーケットニーズをいくつかの分野に分けておいて、プロダクトアウト的に出てきた開発品に、似合うマーケットニーズで粉飾して、研究テーマ審議会に出していく。審議会の重役は大抵事務屋だから*4、「うんうん、なんかいいね」と言って、そのまま予算化してしまうのだ。書いてて思ったが、ブログ主の会社、これでいいのか?

 

 しかし最近、上記のお化粧手法でもテーマアップが難しくなっている。事務屋のクソバカ役員たちが、「CSRって、素敵やん?」とか、「環境問題おいしーです」とか言い出したのである。つまり、マーケットニーズがあるだけではなく、無理やりCSRやら環境負荷低減やらの知らねーよレベルの付加価値も示していかないと、ポイーされてしまうのだ。なに?お前ら研究やめたいの?死ぬの?

 

 ブログ主は今月、社長の前でのプレゼンを控えている。当初は、プロダクトアウトにちょいとマーケットインの化粧をしただけのストーリーで報告しようと思っていたが、事務局から「サスティナビリティの視点も必ず入れてください」とかいう、意味不明な、なんで全ての研究がサスティナビリティに寄与する前提なんだ??ファッ?!??!?な支持が来たため、そこから怒涛の環境問題調査が始まった。結局元々環境問題から発案したわけじゃないので、無理やりこじつけなくてはいけない、一体どの問題に貢献するんだ?もう死ぬか?ほんとにほんとに、こんな無為な時間を過ごすために俺は会社に入ったんじゃない、もう、全部投げ出してやめよう、死のう、勝手にオナニーしてろカスども、という悶絶を経て、ようやくプレゼン資料を完成させた。ちなみに、20枚のスライドを作るために、ボツになったスライドは100枚以上ある。この100枚、1枚1枚に情報調査結果や実験結果が詰まっている。家に帰ってもスライド作ってた。アホか。ワークライフバランスとかほざいてんじゃねーぞ。スライド作る過程でも、作っても作っても髪の毛センターパーツ銀縁眼鏡の会社の犬を具現化したような部長に「う~ん、なんか違うな~」という、明確な指示がないままスライドを作り直させられて、直したものに対しても「う~ん、ボクの言いたいこと伝わってなかったかな~」とかいう、おめえ何も知恵ねえなら会社辞めろや、クソ、という指示を受け、パワポファイル名はrev.30となってやっと完成させたのだ。

 

 あれ?何が言いたかったんだっけ?そうそう、最近のメーカーの研究は、興味がある、面白そう、だけではテーマアップできないよ、無理やり口実をつける技術がメーカー研究者には必須の能力となっていくよ、というお話でした。

 

 最後に、海底捞という中国の超有名な火锅の素を紹介しますので、みなさん、購入してください。

 

 

*1:マスターベーションという言葉、ブログ主の会社では独りよがり、という意味で使われるのだが、これってありなの?

*2:無洗米はマーケットイン型の発明ではないだろうか。便利

*3:この手の神ストーリーは大抵フェイク入ってるからそのまま信じちゃいかんが

*4:製造業で上が事務屋ってやばい